Re:Innovate Japan 滞りのない未来を創造するため

なぜ沖縄はDXの先端地域となりうるポテンシャルがあるのか?-沖縄DX会議レポート-

DX推進の潮流が広がり、地方自治体や中小企業のDXにも注目が集まる昨今。そんな中、沖縄から発信される官民それぞれによるDX推進の取り組みに対して、各方面から高い関心が寄せられている。

2021年12月21日にはイベント「沖縄DX会議-『デジタル時代の沖縄でのビジネス』をどうつくりあげていくのか-」が開催され、第一部では「DXに必要なビジネスプロデューサーの役割」をテーマに掲げ、ディスカッションを展開。本記事では、その模様をお伝えする。

主催:Re-Innovate Japan、一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会

共催:一般社団シェアリングエコノミー協会九州支部

登壇者

松本 国一 さん
富士通株式会社 シニアエバンジェリスト

常盤木 龍治 さん
EBILAB ファウンダー/CTO CSO

モデレータ:

森戸 裕一
一般社団法人シェアリングエコノミー 協会 九州支部長
一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事

どうも最近、沖縄が気になる

森戸:どうも最近、DX界隈で沖縄が気になる存在です。情報発信がうまくいっていて、面白いことが沖縄で起きている、数々の興味深い取り組みを耳にします。そこで、沖縄といえば常盤木さんです。「今、なぜ沖縄なのか?」というところから伺っていきましょう。

 

常盤木:沖縄移住7年目、「沖縄のIT番長」“トッキー”こと常盤木です。コザに拠点を構え、沖縄と国内全体で見ると20社近くでパラレルキャリアで活動していて、地方DXや人口の少ない(5万〜15万)地域でいかに持続可能なテクノロジー活用とビジネスを生み出すかにコミットしています。Microsoft CEOのサティア・ナデラ氏に「世界一のDX」として取り上げていただいた「EBILAB」の事例も実はこの沖縄市および伊勢の拠点から生まれています。50年前、コザは「東洋一のネオン街」と言われ、ベトナム戦争特需で沖縄中|日本中からそのチャンス目がけて人々が集まり、挑戦者の街として賑わいました。音楽、カルチャー、そこにテクノロジーやアートが加わったカオスなエネルギーが事業家・起業家を引きつけ、今ブレイクスルーが起きている。すなわち「 #コザに来ざるを得ない 」という状況が生まれているんです。

森戸:松本さんは、沖縄によく来られていますよね。外の目から見て、沖縄の人と一緒にプロジェクトに取り組んでみた印象などはいかがですか?

 

松本:富士通は沖縄にも支社を構えていて、県内でもさまざまな取り組みをさせていただいています。現場の人から見ると「システムベンダーなんでしょ?」と思われるかもしれませんが、現在はIT企業からDX企業に着実に変わろうとしています。

例えば、地域の水産物を若者と一緒にプランニングし、流通を介して海外まで届け、沖縄の一次産業を発展させようという取り組み。あるいは沖縄では「琉球空手」がよく知られていますが県外ではあまり知られていません。そこで、もっと知ってもらえないか?という「空手DX」の取り組みなどもあります。

「何でもDXと付ければ良いのか?」と思われるかもしれません。ここでポイントは、大手企業が今まで着目していなかったものをしっかりキャッチアップすることです。大手企業がシステムを納入して終わりではありません。水産業なら、ちゃんと船に乗って現場の仕組みを理解し、そのうえで連携する。DXは現場目線が重要です。そこを最近大手も着実に取り組もうとしているんです。

沖縄とは、本社の人から見ると特別な地域です。本土と離れ、独自の文化・産業があります。今後、ちょっと起爆剤を与えればどんどん発展できる可能性を秘めています。

 

森戸:常盤木さんは大手SIerでお仕事されたことはありますか?

 

常盤木:キャリアの約半分はSIerで、多数のプロジェクトを経験しています。

 

森戸:沖縄に7年住んでみて、富士通やNEC、IBMのような大手ベンダーに今後期待する取り組みは?

 

常盤木:ユーザー企業に出資いただき地場の企業と「血」を混ぜる、そして優秀な若手をユーザー企業側に常駐させ、SIer文化に染まる前に自分たちの会社のDNAと混ぜるといった形で協業できると良いのではないでしょうか。 

昔でいうとそれこそ「TIS」さんのスタートは金融業や水産業向けのシステム、「SCSK」さんは商社向けのシステム開発を手掛け、物流・ロジスティックスに強みを持っています。つまり、日本で生き残るシステムインテグレータは専門知識に基づいた特殊業務に強いパターンか、メーカー系のよう垂直統合モデルかに分かれます。

ユーザー理解が深いorカバレッジ範囲が広いというのはDXでも一定需要があるので、このポイントを押さえて強いを活かしていただければと思います。

 

森戸:なるほど。最初に「今、なぜ、沖縄なのか?」をテーマに掲げました。

内閣府の方と話していると、沖縄は実証実験や経済特区展開に最適な場なのでは?と言われています。しかし一方でなかなか実現していない側面もあります。今後デジタル時代に突入すれば、一次産業や観光のDXもスムーズに進むようになるかもしれません。松本さんは今プロジェクトに取り組まれていて、どう感じますか?

 

松本:「DXって何ですか?」と問われたら、「現場の方々が将来、ありたい姿をデジタルで実現すること」です。「トランスフォーメーション」が重要であり、別にデジタルはそれほど重要視していません。

では「トランスフォーメーション」とは何か。一次産業の水産業で言えば、従来は魚を取って市場に流すことであり、そお価格は相場で概ね決まっています。しかし結局「水産業に従事する人が何がしたいか?」と言うと、生計を立てたい以前に、魚を美味しいと言ってもらいたい、海の生態系を守りたい、といった姿です。その産業のあり方をデジタルの力で変革させていくことが重要です。

デジタルを理解しているのは、やはりデジタルネイティブ世代です。その人達の知恵・アイデアをしっかりと現場で拾って使えるようにする、発揮しやすい環境を育む。

そのためにコミュニティを作ったり、周りの企業を繋げていき、うまくビジネスラインにのせる、ということに今後取り組むべきだと思っていて、私自身含め、いま富士通がやっているのはその領域です。

つまり、今までのITメーカーとはまったく違う動きになりつつあります。しかし世界的に見ても、今後はこういう動きがスタンダードになると思います。

 

「お客様のためになる」「発展につながる」「自分たちの地域のためになる」…そう考えて現場変革を進める人たちがたくさんいる。そんな潮流を、ぜひ沖縄の中でもっと広げていきたいですね。

 

観光DX 成功のヒント

森戸:今、松本さんから、水産業DXの話が出ました。観光DXはどうでしょう?観光業は、基本的にお客さんが来なければ成り立たないですよね。この1年半強、コロナ禍で人が動かない中「観光DXって、何すればいいの?」と大きな疑問を抱く人が多かったのではないかと思います。常盤木さんなら、具体的にどう始めますか?

 

常盤木:これはまさに、伊勢の飲食店「ゑびや」が飲食店向け課題解決テクノロジー提供企業「EBILAB」を生み出した道に正解のプロセスがあります。ゑびやの代表小田島と共に2018年「EBILAB」を創業しました。震災等の的要因に備えるため、飲食小売業が生き残れるようにするために、テクノロジー活用に丁寧に取り組んできたのです。

ここで新たな収入源を生み出したことが「X=トランスフォーメーション」の重要なファクターです。「EBILAB」はサービス業向けの“来客予測AI”や店舗経営を支える“ TouchPointBI”といったDXソリューションを、ユーザー企業として同じ悩みを抱える全国の飲食・小売・観光業に提供する事で、飲食小売部門の売上補填をできていて、コロナ以前と比較しても売上9%減で済んでいるという状況で、ここがまさに今取り組むべき“DX”のヒントといえます。

県内観光業自体がレジリエンスを持つためには、複数の収入源を持つ。顧客接点があるなら、宿泊に依存しない形での収入源を作りに行くことが大事です。

 

森戸:飲食小売業が他のキャッシュポイントを持つというのは、例えばネットショップの展開に乗り出すなどでしょうか?

 

常盤木:ネットショップもそうですが、例えばWeb上でおもてなしを可能にする「3D来店(Web来店)」のような施策も挙げられます。コロナ禍以降、観光スポットに行くこと自体が少し後ろめたくなり、結果、お土産品なども買いにくくなっていますよね。売上自体も大きく落ちています。そこで、Webで来店体験をできるようにしたのです。つまり現地に行かずとも顧客にしっかり良い体験をしていただき、対価を頂戴できるサービスです。

例えば伊勢神宮でした、、本来はお守りを自分自身がお宮へ行って返納しなければなりません。でもその一連の流れを代行してWeb中継し、お宮にお届けするところまで体験できるという取組事例などがあります。

実は今こうした体験拡張に、次のビジネス需要のヒントが沢山あります。

 

森戸:ライバーやVtuberもそこに含まれるかもしれませんね。沖縄は動画配信文化の盛り上がりはどうですか?

 

常盤木:「根間うい」という有名なVtuberがいます。県の公式イベントで起用されたり、オキナワスタートアップフェスタなどにも登壇しています。そのほか、日本でトップクラスの声優が数多くいたり、コミケ的なイベントもずっと続いていたり、沖縄はサブカルチャーに対しても理解が深い場所だと言えます。

 

森戸:YouTuberやVtuberは東京でも事例が多いですね。しかしその一方、ライブコマースはまだ事例が少ないといえます。沖縄で動画配信などの話をすると「沖縄はライブコマースに向いているかも」という声が挙がって、凄く盛り上がるんです。

 

常盤木:国外向け、越境ECの話しでしょうかね。

 

森戸:そうそう。

 

常盤木:沖縄は中国とも関係が深いので、両方を行き来しているプレイヤーがたくさんいて、ライブコマースも国内で言えば他県よりはるかに積極的だと思います。

 

「メタバース」新しい世界観を理解する重要性

森戸:そういう意味でいうと、メタバースも今後注目ですよね。松本さん、詳しく教えてください。

 

松本:Oculus Quest 2というVRゴーグルは、Meta社(旧Facebook社)が作っている製品で、店頭で約37,000円で購入可能です。一見すると、おもちゃのように見えるかもしれませんが、皆さんの世界観を大きく変えるツールです。

 

例えば「NISSAN CROSSING」という、日産のショールームをを体感できる空間がメタバース上に構築されています。

Oculus Quest 2を装着してVRチャット空間にログインします。すると自分のアバターが出てきてショールームに入ることができます。空間内にある看板を読むこともできるし、車も見ることができます。今はまだ、車には乗れませんが、今後はメタバース空間上で試乗体験ができるようになっていきます。

こちらは(上図)「NISSAN CROSSING」の仕掛け人である東智美さんと、私・富士通松本の、VRチャット上での会談の様子です。

実はVRチャット上に、コミケイベントを定期的に開催するコミュニティがあるんですよ。そこに日産の社員が参加してVRチャットを楽しんでいたんです。その交流がきっかけで、日産としてVRチャット上にショールーム空間構築が実現しました。広報の上層部も「この空間は、これから来る」と思ったわけです。

従来であればこういう話、必ず広告代理店が出てきますよね。要は、メーカーは何を作っていいかわからない。だから広告代理店に発注し、彼らから提案をもらう。それで、大掛かりな箱を作るんですが、それで終わりになってしまうパターンも多い。

でも今回はそうならなかった。なぜなら、日産の人たちはコミュニティを凄く重要視していて、東さん率いるVRクリエイターにアジャイルで開発してもらったからです。

ここで重要なポイントは、地域でも自治体でも企業でも、中の人達と深くコミュニケーションができて、コミュニティを形成して、その人達に直接依頼をすれば、アジャイル型で素晴らしいものがどんどんできるという点です。クリエイターは別に本州だけじゃない。例えば沖縄県内にもいっぱいいます。要は、つながれるかどうかです。

日産はうまくつながりを持つことができ、VR空間の構築まで成功しました。今後は、AURAという新しい車のCADデータを用いて車の内装をVR空間上に構築し、バーチャル試乗会をやろうとしています。車に乗った目線で、周りの景色が移り変わってゆく、そんな体験を実現させようとしているんです。

つまり、メタバース空間上にどんどん人が来て、そこで疑似体験をすることで、今度はリアルな世界でモノが売れる時代を実現しようとしているんです。しかも、大手企業がクリエイターと直接つながって実現していることも、従来であれば考えがたいことです。大掛かりな箱物を作ったところで、人々に関心を持たれなければ、その先の展開はあり得ません。この世界観がメタバースでは当たり前になっていくと思います。

 

常盤木:ちなみに沖縄ではコロナ禍に展示会がリアル開催できない時、まさにVR空間を作って台湾のスタートアップとの交流イベントなども開催していました。

 

森戸:メタバースのような新しい世界に関して、地域の人の受容性はどうですか?最初はごく一部の、20〜30%の人が使えば良いのかなと私は思うのですが…。メタバースを沖縄で広げようと思ったら、産業界の何%ぐらいの人が取り組めばリーダーシップを取れると思いますか?

 

常盤木:私は、1%行かなくていいと思います。0.5%とかで全然いい。

 

松本:うんうん。

 

常盤木:それこそ沖縄で、先ずは10人ほどのクリエイター(作り手、プロデューサー)がいれば十分だと思います。それ以外の人は、例えばECが世に浸透してきたプロセス同様に、現段階では全体像を把握していなくても全然いいと思います。

なぜかというと、先行者利益を得ることが大切だからです。メタバース空間を、ライブコマース、EC、オムニチャネルコマースの一つの顧客接点として使えるぐらいのスタートでも良いと思うんです。そこで沖縄のクリエイターやプロデューサーが頑張ることで、先駆者メリットを得ることができれば良いと思います。

 

森戸:みなさん、ここがポイントなんですよ。「みんなが使えるようにならないとだめ」と考えていると、「うちの地域は難しい」「無理」「中小企業が多い地域だと向いてない」「合わない」といった話になりがちです。

しかしそもそも、「みんな」じゃなくていいんです。常盤木さんがおっしゃるとおり、先行者メリットを取りたい、という会社がやればいい。沖縄の中で1%の人だけでもメタバースに取り組んだら、全国的に見ても十分、先行者利益は取れます。

そう考えれば、自治体・公的機関・大手ベンダー・ベンチャーいずれにせよ、先駆者がしっかりその領域を牽引していけばいいんじゃないかと思います。コザにはまさにそういうコミュニティがありますよね。

 

常盤木:コザの話は、沖縄全体の話にもつながります。沖縄は既存産業が弱く、全国的に見ても製造業が圧倒的に少ない。裏を返せば、メタバースを推進して既存産業を破壊してしまうデメリットがないんです。さらにコザは、基本的に新しい挑戦をバカにしない、一緒になって楽しむ風土がある街です。コザの街とメタバースの相性は良いと言えます。

 

森戸:沖縄には製造業がないのが、昔は「弱み」と捉えられていましたよね。

一方他地域では、製造業があるゆえの悩みもあります。つまり、既存の仕組みを壊すことが難しい。また。製造業の発言力は財界に対して非常に強く、新しい取り組みには反発もあります。

でも、沖縄にはそれがありません。だから、最初に沖縄から攻めていくやり方はアリですよね。富士通さんとしてはどうですか?

 

松本:まだ、深い地域コミュニティには入り込めていませんが、先程のメタバースコミュニティの事例のように「新しい世界観」を理解できる人が存在することが重要です。現場のリアルを知らなければ、何もできません。従来のITツール導入などは「何とかなるんじゃない?」とスタートする事例も多くみられましたが、昨今のDXで重要なのは現場をしっかりと認識した上で何ができるか、咀嚼して考えることです。

沖縄の富士通メンバーは、それができる人材が揃っています。フットワーク軽く、新しいことをどんどん取り込もうとする人が多い。沖縄の風土や、若さも、もしかしたらあるかもしれません。ただし、しっかり地域を見据え、技術も身に付けている。これが武器になります。そのような人たちが地域コミュニティに深く入っていき、コミュニケーションを取りながら進めていけば、メタバースのように新しい世界観を作り上げることは可能だと思います。

 

地域の課題解決を担うべきは、誰?

森戸:では話を展開します。沖縄の地域課題をデジタルでいかに解決するか、今、数々の自治体・公的機関と話が進んでいます。沖縄の地域課題とは、常盤木さんが先ほどおっしゃったように「業種の偏り」「製造業が弱い」など指摘されますが、それを逆にデジタル社会の強みと言うこともできますよね?それでは、沖縄の地域課題解決を担っていくのは、誰なのか?常盤木さんはどう思いますか?

 

常盤木:よく、地方創生は「よそ者・ばか者・若者」なんて言われますよね。

 

製造業が日本で最初に勃興した街・北九州に拠点を持つ会社が、コザに拠点を作りました。理由は、工場が近くにあると、現場で働く先輩達をどうしても気にしてしまい、新規事業になかなか集中できないからです。会社としては、メタバースもクラウドも意識してる。メディア事業にも取り組んだほうが良いと理解している。その一方で社内には旧態依然とした業務環境があり、そちらも邪険にはできないのがリアルな実情です。よって、物理的な環境を分けようと沖縄に飛び込んできた、「よそ者」の一事例です。

そこに対して「若者」や「ばか者」がメソッドを持ってダイブし、着火する。

この「3すくみ」のサイクルが確立されれば、回っていくのではないでしょうか。

 

森戸:なるほど。

地域内の社会問題って、数々あると思うんですよ。それを課題(イシュー)に置き換えて、ビジネスに丁寧に創り上げていく必要がありますよね。

単に「地元の問題山積」だけでは、誰もビジネスとして参入しない。でも、ビジネスモデルが構築できれば、地元の会社でも、ベンチャーでも、「よし、我々が取り組もう」という発想に至るじゃないですか。

そこをデジタルの力でサポートできたら、ちょっと変わっていくんじゃないかと思うんです。

 

常盤木:課題抽出で言うと、小職がメイン講師を務める内閣府主催の全16回構成のDX講座が開設されています。本州でのDX実践の経験に基づいたメソッドを、沖縄の現地企業で働く20代〜60代の幹部社員に教えて、適切な課題定義・抽出ができるよう教えていて、移住者ではなく、現地のプレイヤーが変革に取り組む事例も出てきています。

 

森戸:なるほど。富士通さんはどうですか?現地の会社と組んで地域課題解決をしようというときの、組み方は?

 

松本:例えば流通DXです。沖縄には素晴らしい一次産業がたくさんありますが、今まで注目されていない側面が大きかった。価格面でも国内では安く見られたりしていました。しかし海外から見れば、農産・水産・畜産いずれも非常に高品質な日本製品が、近場から手に入るという利点も含め、非常に大きなバリューがあります。

ただ、そのバリューを出すためには、流通と産業がしっかり組まなければなりません。

そこでまさに今、流通業の会社と富士通でタッグを組んで、現場ごとに1箇所ずつ足を運んで回り、ビジネスのタネ発掘、そして例えばアジア圏でいかに訴求すれば適正価格以上で買ってもらえるか、といった課題ににチャレンジしています。

この取り組みは1社だけでなく、この先どんどん展開を広げていかなければなりません。

DXって、一つの企業でクローズドでやって、何か変化がもたらされるか?ではないんです。エコシステムをしっかり築き上げて、企業間・地域間で相互連携をさせることで大きな価値が生まれるものです。

沖縄は、そのような相互連携を図りやすい地域だと思います。本土に依存しないあらゆる産業が県内に揃っていて、互いに距離も近い。そこで手を組めればどんどん発展の可能性があります。

 

森戸:そういう取り組みの中で、富士通さんはどんな立ち位置をしているんですか?

 

松本:富士通としては、最終的にはデジタルツールやシステムを採用してくれたらありがたいですが、最初からそれが目的ではないです。まずは現場が変革しないと、そもそもデジタルは導入されません。だから今の立ち位置としては、どちらかというとスターター(着火)の役割です。「まずはやってみましょう、現場にはどんな課題がありますか?」「課題を明確化して、その解決のために、どんなプレイヤーと組むべきか考えましょう」「そこでデジタルが要るなら、デジタルを導入しましょう」「デジタルが必要でないなら、変容だけしましょう」それで良いと思っています。

 

森戸:今の話だと、沖縄は本土に依存しない、独立した産業が揃っている、という話ですよね。そこへ富士通さんのような県外企業が参画して、最終的にはインフラやプラットフォーム構築の役割を求められると思うんですが、常盤木さんのように、現地の社会を理解している人から見るとどうですか?

 

常盤木:相当ぶっちゃけていうと、「人」ですね。富士通、NEC、IBMといった会社の看板を捨ててこないと、沖縄では難しいと思います。成功するためには、「企業的な利益ありき」ではなく、「地域課題を解決したい」という個の強くアツい想いが極めて重要です。そのようなアツい想いを抱いている人が、たまたま富士通の社員だった、などであれば良いかもしれません。外から来たメーカーが音頭をとるのは、沖縄では極めて難しいのです。台湾でのビジネスに近いところもあるかもしれません。結局「なぜその人達を救いたいのか」を言語化できる、そして、忖度無く既存のビジネス環境やコミュニティをつくり上げてこられた方々と深い議論を続けていける人でないと。UIターンでも良いですが、沖縄と強い絆・結びつきがある人が良いと思います。

 

地の利を活かした、持続可能な発展に注目

森戸:では第一部、最後の問いかけです。デジタル社会とはオンライン、ボーダレスであり、沖縄も本土も、地方も首都圏も、垣根がなくなっていきます。

そのレイヤーの中で活躍できる人こそが「デジタル人材」で、そうでない人は、地域内でしかビジネスができない話になってきます。

デジタル社会において沖縄のポジションとは、どんな姿を目指すべきでしょうか?

常盤木:私は明確です。沖縄は『データマーケティングの世界最高の聖地』を目指せば良いのです。なぜなら、沖縄は陸続きではなく、船と空路でしか来れません。そして、アジアとの距離が最も近い。地政学的にも今後西日本を中心に経済が伸びていくと思っています。アジア各国の金融拠点との関連性を考えても、ここにデータマーケティングの拠点を置くべきです。しかも商いが好きな人達が多い。だったら、データを加工して売ることをビジネスの重点に置いていくべきです。

 

森戸:なるほど。松本さんは、このご意見についてどう思いますか?

 

松本:アジアに一番近いというのは私も共通の考えです。本土に比べて台湾・中国に近いですよね。今圧倒的に発展しているのはアジア圏であり、若い人口も多い。それを踏まえれば、沖縄を拠点にしてデジタルを使って、各方面と連携すれば可能性が広がると思います。

それがデータビジネスでも良いし、私は一次産業でもいいと思います。デジタルをうまく活用して、沖縄の良さをどんどん発信していくことでポジションを取ることも可能ではないでしょうか。

例えば中国・深センは、大都市部が100年かかった進化をわずか40年で果たしました。一方日本は、その半分以下のスピードでしか動いていません。アジア圏との連携を強化すれば、本土よりスピーディーに発展できる可能性もあります。

ただそのためには、デジタルの力をどこまで取り入れるか、あるいは、若い人たちの感性を活かして、新しいことをやろうとモチベーションを持ったコミュニティがないと成り立ちません。そこは、常盤木さんらがしっかり牽引していってくれるのではないでしょうか。

 

森戸:つまり沖縄におけるDXというのは、「業務効率化」といった話ではなく「新産業を作ろう」ということですね。内閣府や沖縄県庁などで、デジタル人材育成の動きもいろいろ見られます。沖縄の社会で、デジタル時代にユニークなポジションを取るための人材育成はもう始まっているのでしょうか?

 

常盤木:始まっています。例えばホテル業界だと多言語対応の人材確保などです。沖縄県内にある一つの客室と認識するのではなく、アジア全体をマーケットとして捉え、もっとハイエンド側に寄っていくことが必要です。顧客体験を向上させ、滞在期間が長くなり、顧客単価も高くなっていけば、ひいては県民の所得向上につながります。観光団体では、このような議論が積極的に行われています。いわゆる「持続可能な発展」に注目しているわけです。耐用年数の長いコンテンツ、つまり、土地の歴史などをしっかり発信していくことにも舵を切りつつあります。

 

森戸:それでは最後の締めくくりに、本セッションの感想をお願いします。

 

常盤木:昨今のDXの潮流、さらに言えばコロナ禍でさえ、千載一遇のチャンスです。外的環境とは、常に変化し続けるものです。環境要因に揺さぶられることなく、この沖縄に生きる人々がどう変革していくか。まさに「X=トランスフォーメーション」が重要です。また沖縄は、個々人の賃金上昇よりも全体の幸福を共有する、金銭的な欲求よりも家族との時間・自分たちの時間を重視するといった精神性を大事にする土地柄でもあります。

「X=トランスフォーメーション」を実現する要素を、世界トップクラスに持っている土地だと冒頭で述べました。互いにつながる、連携する、ということに恐れがないのです。あらゆる命が、テクノロジーの力で輝く島にできるのではないかと考えています。

 

松本:トランスフォーメーション、つまり変革が重要です。何か新しい物事の「完成体」「正しい姿」を求めるばかりでは、何も進まないし、変わっていきません。まずは、一歩踏み出してみることが必要です。沖縄には「なんくるないさ」という良い言葉があります。つまり「なんとかなるよ」…この感覚で第一歩を踏み出せば、その先には新しい世界が待っているかもしれません。このような沖縄の風土・土壌を強みとして生かしていくことで、今後デジタル社会において存在感を発揮していけるのではないでしょうか。

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