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「スマホで経営変革できないか?」から始める、地域DX推進のはじめの一歩

ニューノーマル時代において、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉がビジネスのキーワードになっています。そのような中で「どんな業態でも、デジタル化したほうがいいのだろうか?」「うちの地域・業種では、デジタル化はハードルが高い」と考えている人も少なくないでしょう。

しかし、日本デジタルトランスフォーメーション推進協会代表理事の森戸裕一さんは、「どんな業態であっても、今デジタル化に踏み切らなければ、時代に取り残されることになってしまう」と警鐘を鳴らします。

今回はその森戸さんに、デジタル社会に適応すべく、ビジネススタイルを変革させる上で理解しておくべきポイントを解説いただきました。

デジタル社会の新しいビジネススタイル

どんなビジネスも2割はデジタル化すべき

デジタル化の伸展により、観光の考え方、飲食店のプロモーション手法、不動産業界のあり方など、すべてのビジネスが変わりつつあります。多様化が進む時代においてお客様の選択肢をいかに増やすかを考え、次世代ビジネスの再定義に取り組んでいかなくてはなりません。


そんな中、変わらないお客様もいることを理解しておかなければなりません。感覚的には、8割の人は変わりません。変わろうとしている2割を新規顧客としていかに獲得するかが勝負です。


全くデジタル化に取り組まなかったとしたら、観光客も、移住者も来ない、企業誘致もふるさと納税もうまくいきません。しかし2割だけでもデジタル化することで、地域外のコンサルタントなどと繋がりやすく、招致しやすくなり、企業誘致のきっかけや、新たな観光客の呼び込みにもつながります。コロナ禍で経済を回すことが困難な中、いかに「2割デジタル化」を目指して変革していくかが重要です。


「(デジタル化を)やるか、やらないか」ではありません。「何割やるか」が大事です。「デジタル化しない」場合、「オンライン予約ができない」「商品をネットで買えない」など、デジタル接点を求めているユーザーは一切関与できません。よって、「何割デジタルを取り入れるか?」という考え方が重要です。

「スマホで経営変革できないか?」から始める

岸田総理は「誰ひとり取り残さない社会をつくる」と表明しています。最近「SDGs」という言葉をよく聞きますが、世界中が2030年までに「誰ひとり取り残さない社会をつくる」ということを目標にしています。我が国においても地方創生や、産業構造の変革に取り組んでいかなくてはなりません。このような話を地方の中小企業の方にお話すると、「話が大きすぎてよくわからない」「地元には関係ない」という声が出ることもありますが、経営者ならば理解しておくべきだと思います。


中小企業は、もともと経営資源に乏しい。もともと弱い立場だからこそ、デジタルなど何らかの武器が必要です。「誰ひとり取り残さない社会」においては、地方都市や中小企業こそが、コンピューターやロボットの力を借りてデジタル化し、より活躍できる状況を創出すべきです。


業務を自動化すれば「週5日労働ではなく、3日で良い」といった状況も作り出せます。いま考え方を変えなければ、都市部に人材が流出し、地方で働く人がいなくなり、飲食・観光・製造・不動産をはじめあらゆる業種が人手不足に陥ります。ビジネスを将来に向けて存続させることができず、全滅してしまいます。よって、デジタル化は何らかの形で取り込まなければなりません。


私が主張する「デジタル化」とは「パソコンを導入してください」ということではなく、「スマホをもっと活用してください」というようなことです。スマホは子供からシニアまで持っています。「スマホで経営変革できないか?」といった切り口から始めることが重要です。

弱い立場をデジタルで補完すればもっと活躍できる

今では、世の中の8〜9割の人がスマホを使っています。誰でも写真や動画を撮ったり、LINEを使ったり、飲食店を探すときにGoogleマップを見たりします。そこに地域内のスモールビジネスがちゃんと載っていて、レビューや、その日の営業時間などがちゃんと日々更新されていて…という状態を保つことが重要です。Google Mapで表示されない店は、無いも同然です。


また、「本日開店」と表示しておきながら、実際に行って臨時休業だったら、そのお客さんはもう二度と来てくれません。小規模事業者が生活者とデジタル接点を保つ重要性を、もっと認識するべきです。社会がデジタル実装化した今、そのようなノウハウを観光協会や商工会議所が、地域の飲食店などにしっかりとレクチャーしなければなりません。


「連続して8時間働かなければ正社員とは言わない」「オフィスに出社しないと仕事とは言わない」などは、スマホが無かった時代の常識です。「1億総介護時代」と言われ、男女が平等に家事・介護に参画する時代だと考えると、リモートで働ける環境を作っていく必要があります。企業が時間・場所で人を拘束すると言い続けていると、だれも中小企業には来なくなります。


あるいは副業人材や、遠隔地にいる人材を、デジタルで繋がっていかに戦力化するかも重要です。また、デジタル時代には地方の大学など、教育機関もうかうかしてはいられません。昨今の学生の中には、実家に住みながらオンラインを活用して海外の大学に入学するパターンも出てきています。


このように、デジタル社会の実装によって従来の常識が大きく変わりました。その一方で、地方都市は人口減、中小企業は人手不足です。しかしその課題は、オンラインで解決できます。域外の人もオンラインで戦力化できる、リモートワーク推進で、人材を呼び込める。デジタルの力で、中小企業、地方都市、女性やシニアなど、従来は弱い立場だとされてきた層の弱点を補完することが可能になります。

今デジタル化しなければ次世代にツケが回る

自治体は全国に約1700ありますが、そのうち約1500は「高齢化が進んでいるので、デジタル化はうちにはまだ早い」「中小企業は、アナログなやり方なので…」という温度感です。つまり、地域住民を盾にして、「変わらない選択」をする自治体が1500もあるのです。


一方、「デジタルやITが苦手な層のことはしっかりとサポートするから、次世代も活躍できる地域にしたい」と変革にチャレンジする自治体は約200程度です。


中小企業に対して経営のアドバイスをしている人、つまり自治体・支援機関・金融機関・士業の考え方や役割を変えて、それを起点に地域全体を巻き込んでいかなければ、地方都市は全く変わりません。銀行、士業、商工会議所、観光協会…皆、変わらなくてはならない局面を迎えたのです。今、このコロナ禍やデジタル庁発足のタイミングでデジタル変革しなければ、向き合うべき問題を先延ばしして、子供世代、孫世代にツケを払わせるだけです。次世代が地域社会に住み続けられる選択肢を提示してあげることこそが、親・祖父世代の取り組むべきことです。皆がスマホを持つようになった時代に、「私はアナログ派ですから」「うちの業界は特殊ですから」「地域の特性がありますから」ではマズい。


なぜデジタル庁ができたのか?と言うと、今までの縦割り行政ではなく、各省庁や自治体や公的機関を横串で連携させて、施策の成果をより高く出すためです。同じことが、民間にも求められています。各業界や組合、商店街が横連携する流れを作っていかなければ、DXは実現しません。


例えば飲食店であれば、飲食の提供や宴席のサービスはもちろん良いのですが、日中に稼働しない時間帯があるのなら、ビジネスマンに対してミーティングスペースとして提供するアイデアなども良いでしょう。食材が集積する場所、と考えれば、農家・漁業との連携で食材の通販などの展開をすれば、収入源が増えることになります。「商店街の前を通過する人を集客してモノ・サービスを提供する」から、既存ビジネスの意味合い・考え方をいかに再定義してマネタイズに繋げるか、という新しい発想が必要です。

官民連携で取り組む地域課題解決

これからは「公助」「自助」「共助」の3極が重要

地域の課題解決に対して、従来の人口増加期においては「公助(公共事業)」「自助(民間事業)」という2極の考え方でした。

ところが現在の人口減少期においては「官か」「民か」の2極に加えて、「共助(官民連携)」という視点も必要です。「これは、官の仕事だ」「民の仕事だ」とお互いに地域課題を押し付けあっても、地域は良くなりません。「共助」とは、多様な人材・企業・団体が連携して時間と知恵を出し合い、次世代のために地域課題をいかに解決するかを考えていく取り組みです。


子供世代がやがて大人になる頃に「こんな街の姿にしたい」というビジョンを明確に示しながら、「共助」で取り組まなくてはなりません。「時間もお金もない」という問題に対しては、デジタルを活用することで工夫できます。今、デジタルによる地域課題解決に取り組もうとする自治体はどこかなのかを、総務省やデジタル庁は、ちゃんと見ています。

デジタル田園都市国家構想に関して地方都市が理解すべき3つのポイント

岸田政権が掲げる「デジタル田園都市国家構想」について、地方都市が理解しておくべきポイントが3つあります。

①デジタル時代は地域外から数多くのプレイヤーが介入

デジタル田園都市国家構想には、数多くの大手民間業者が参画しています。地方都市で何か取り組みをしようとすると、これらのプレイヤーがすべて介入してきます。「地方都市での施策なので、地域内の中小企業が補助金を貰う権利がある」といった発想は、デジタル時代には完全に壊れます。


首都圏の大企業が多数参画していることに対して危機感を持つべき側面もありますが、一方で関係人口・交流人口が増え、地域内の観光・飲食が潤うことも期待できます。何より、新たな交流を通して、新しい発想や、新たなビジネスのネタが生まれる可能性も高まります。地域外から人材を招致し、戦力化することにも繋がります。

②「ゆりかごから墓場まで」地場企業がいかに絡んでいくか

デジタル庁は、「ゆりかごから墓場まで」生活の局面すべてにデジタルが関わってくる、という言い方をしています。すると、地域の介護・医療・教育・不動産業をはじめ、人が生まれてから亡くなるまでに必要なあらゆるサービス業に、デジタル接点を介して地域外から競合が参入してきます。地域の人々によるお金の落とし方も変わります。だから、各接点に地域の企業がいかに絡んでいくか考えることも大変重要です。

③公民館、学校、商店街…街全体の再定義に取り組む必要性

例えば公民館という場所は、昔は地域の寄り合い、子供会など地域内の人々が集う場として活用してきました。しかし子供が減り、地域で寄り合いをする機会も減り、公民館の使い道が無くなってきているとも言えます。現在、公民館は「社会教育」的な管轄から、「まちづくり」にその管轄が変わりつつあります。管轄が変われば新しいサービスの提供など可能性が広がり、公民館そのものの意味合いを変えることもできます。例えば、看護師など医療従事者が常駐することで、ワクチン接種の拠点になれます。あるいは、公民館に保育所の役割を持たせ、単なる保育所ではなく、シニア世代との交流・教育の場とするなども考えられます。


高速ネット回線を導入し、地域外の講師やコンサルタントと連携すれば、最先端の知見を学べるまちづくりセミナー開催の場に、といった環境づくりもできます。つまり今後は、アイデア次第で公民館のあり方とは、いかようにも変わっていくのです。公民館、商店街、学校など、インターネットやスマホが無かった時代に街の機能として必要だった場所の意味合いを、デジタル活用により、今後の役割を再定義していく…そこで、どのようなアイデアを出すかが重要であり、このような変革こそが地域社会のDXです。

5年以内に、現行ビジネスのあり方を変えなければ立ち行かなくなる

5年以内に現行ビジネスのあり方を変革しなければ、地方都市において弱い立場の人々を救えない街になってしまいます。人手不足は続いており、そこに追い打ちをかけるようにコロナ禍の到来です。緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置が発令されて店を一時的に閉めても、「経営的には大丈夫」という状態にしておかないと、事業の存続は難しいと言えます。


だからこそ、デジタル基盤を活用した官民連携、異業種連携が重要です。「わが町は、そこには乗らない」という選択肢は、ありません。乗らなかったとしたら、次世代が地域内から流出するか、もしくは地域が機能不全に陥ってしまいます。

 


デジタル変革を進めるうえでは、組織内からの反発も想定されます。「次世代のために、こういう街にしていきたい」というビジョン無きまま、目の前の業務効率化だけを主張しても、「それ、何か意味あるんですか?」と組織内の理解・協力を得られません。デジタル活用で、今、目の前にある「課題」を解消し、業務効率化によって生み出した時間は果たして何に使うのかを、まず提示する必要があります。「業務効率化によって、次世代のためのまちづくりに時間を振り向けていく。考えたり、行動する時間を創出する」などと明確に打ち出さねば、変わっていきません。 


デジタル時代、いかに新しいつながりを生み出すか

「デジタル化」とは、「人と人をつなぐ」ことです。

例えば昨今では子供からシニアまで、誰もがスマホを持っていて、そのコミュニケーションを介して感情やアイデアが生まれています。デジタル化とは、単なる「効率化」だけではありません。人と人がつながることで、新しいアイデアが生まれたり、その地域内だけでは解決できない課題をも解決できるようになっていきます。ひいては地域内のコミュニティがより良い状態に、地域内で暮らす人々の生活がより良くなることです。

       

これからは「過疎化」ではなく、「開疎(かいそ)化の時代」だと言われています。多拠点ビジネスの時代になり「第2拠点をどこに持つか?」と考えるビジネスパーソンも増えています。数ある地方都市の中から「我が街が選ばれる理由」を、いかに知恵を絞って創出していくかが重要だと言えます。


※本記事は、2022年2月に開催された日本デジタルトランスフォーメーション推進協会大分県支部主催のセミナー「中小企業DX推進セミナー 多様化する社会でお客さまの選択肢を増やす経営について考える〜デジタル社会の本質を見極め、地域全体で次世代ビジネスを創る〜」の内容をもとに再構成しました。

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