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「こおりやまDXプラットフォーム」のチャレンジに見る地域DX推進のポイント

「地域でDX推進を支援していくためにどうすべきか?」「DXセミナーを開いたものの、その次のアクションとして何が良いのか?」と悩む自治体や支援機関の方も多いのではないだろうか。

数多くの自治体がDX推進事業に着手する中、福島県郡山市では「こおりやまDXプラットフォーム」を立ち上げた。DXにチャレンジしたい中小企業・個人事業者を対象に、専門家による相談支援や異業種企業との連携支援などを行う事業で、従来の中小企業支援とは異なる枠組みでDX支援を行っている。

2022年2月9日にオンラインイベント「『こおりやまDXプラットフォーム』のチャレンジから見えてきた地域DX推進のポイント」が開催され、郡山市役所産業政策課 深谷 大一朗 氏、株式会社グッドビジネスパートナーズ/JDX福島県支部 三部 香奈 氏が登壇、地域DX推進のポイントについてディスカッションを展開した。

登壇者

郡山市役所産業政策課 深谷 大一朗 氏
株式会社グッドビジネスパートナーズ/JDX福島県支部 三部香奈 氏
一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸裕一


森戸氏:政府が「デジタル田園都市国家構想」を発表し、さまざまなプロジェクトが走ろうとしています。「地域でDX推進をどのような形で行っていけばよいか」「地域のDX推進に対して自治体がどのように支援していけばよいか」「さまざまなDX関連のセミナーなどで知識を学んだ後、何から取り組んでいけばよいのか」など悩んでいる自治体・公的団体・支援機関も多いと思います。そこで「こおりやまDXプラットフォーム」の取り組みをぜひ参考にして、推進のきっかけにしていただければと思います。まずは、登壇するお二方の自己紹介をお願いします。



深谷氏:郡山市役所 産業政策課所属の深谷です。郡山市の中小企業や、起業家支援が主な担当業務であり、その流れから郡山市のDX推進業務も担当しています。



三部氏:株式会社グッドビジネスパートナーズの三部です。郡山市で会計事務所をはじめとしたグループ全体で、企業支援やコワーキングスペースの運営、起業家支援などを行っています。今回郡山市の産業DX推進支援体制構築事業を受託させていただき、2021年夏から半年にわたりチャレンジしている最中です。

地域課題をマッチング、多様な人や企業の連携・協業を推進する場「こおりやまDXプラットフォーム」

森戸氏:まず、前提として「なぜ郡山なのか?」という点をお話します。私自身は日本デジタルトランスフォーメーション推進協会(JDX)の代表理事を務めていますが、郡山市とJDXは、中小企業のDX推進の連携協定を結んでいます。その連携体制が「こおりやまDXプラットフォーム」のベースになっているんですよね。



深谷氏:今まさにコロナ禍において中小企業がどう業態転換し、非接触型ビジネスにするか、テレワーク対応へ移行するかが、日本全体の課題です。郡山市でも、中小企業のDXを進めなければならないという大きな課題を抱えていました。そんな中、森戸さんをはじめとするJDXとの連携実績があったことから、郡山市とJDXとの間で連携協定を締結するに至りました。


森戸氏:JDXは数年前から郡山市さんと「中小企業のIT化」や「起業支援」でご一緒させていただいていたんですよね。 


それぞれ、別個で進めなければいけない課題ではありますが、融合させることで、中小企業の第二創業の支援にもなり得ます。中小企業がそれぞれに抱える課題や、地域課題のマッチングをして、新規事業を推進していくための「場」が必要だ、という流れがありました。そこで試行錯誤しながら、「こおりやまDXプラットフォーム」ができあがったんです。


[出典]こおりやまDXプラットフォーム

森戸氏:中小企業のIT化・経営支援と言うと、今まで商工会議所・各種組合・金融機関や、よろず支援拠点という国の取り組みもありました。そんな中、新たに「こおりやまDXプラットフォーム」を敢えて立ち上げた理由や、ユニークな取り組み、他の団体とどう違うのか、もしくはどう連携しているのか、お話しいただけますか。



三部:2021年8月にキックオフし、地域の企業・個人を対象に、DXにチャレンジしたい方を全力で応援すると打ち出し、エントリー企業を募集したところ13社のエントリーがあり、そのうち12社を採択しました。「働き方改革部門(デジタルによる業務効率化など)」「価値創造部門(新規事業立ち上げなど)」の二部門でエントリーを募集し、働き方改革部門のほうが多いのでは、と事前に予想していましたが、蓋を開けてみるとほとんどが「価値創造部門」だった、という面白い展開になりました。


10月には、エントリー企業が集まり、オンラインミートアップ(授業)も開催し、郡山でDXにチャレンジしたい企業の想いを聞く場を設けました。そして11月にはオンライン・オフラインのハイブリッドでメンタリングをするフォーラムも開催しました。


今までの支援機関とどう違うのか?と言うと、既存の支援機関(商工会議所、金融機関、よろず支援拠点)を巻き込みつつ、支援機関以外でも、例えば起業家とか、地域外の専門家など多様な人が集まるオープンな場を作った点です。



森戸氏:働き方改革、IT化、業務効率化に関する支援は、商工会議所やよろず支援拠点が長らく取り組んできた経緯もありますよね。価値創造(新規事業)部門へのエントリーが多かったのは、新たな支援機関である「こおりやまDXプラットフォーム」への期待感もあったのかもしれませんね。

それから、公式サイトや資料などでSDGsを掲げていますよね。



深谷氏:郡山市は、令和元年7月に内閣府よりSDGs未来都市に選定されたことから、市の事業はSDGsとの関連付けを強めていく動きをしています。


なぜDXで、SDGs?と感じる人もいるかもしれませんが、企業理念やビジョンをデジタル化につなげていくことで、誰ひとり取り残さない社会を実現できる可能性を感じます。ゆえに、「こおりやまDXプラットフォーム」としてもSDGsの考え方を取り入れて、採択企業に対してその趣旨の説明もしています。



森戸氏:岸田首相も所信表明演説の中で「デジタル田園都市国家構想」に言及していました。デジタルを基盤とし、ビジョンとして、「誰ひとり取り残さない社会をつくる」と掲げています。


そのビジョン実現に向けて、デジタルインフラのもとで、さまざまな活動をしていく。例えば知識の交流、生活の改善、新産業創造など、さまざまな可能性が考えられますが、誰ひとり取り残さない社会をつくるためには、今までのやり方では難しいと言えます。日本は超少子高齢化で、生産年齢人口がどんどん減ってきている。そんな中、個々人の取り組みだけでは難しい。特に地方都市においては、人手で解決するのは難しくなってきます。そこで「こおりやまDXプラットフォーム」は、デジタルの力で業務効率化を進めながらも、地域課題解決に向けた新しい取り組みをやっていくことが主旨なんですよね。


深谷氏:産業DX支援は、郡山市としてかねてより至上命題でした。以前はセミナーや、専門家の相談会を開催するところまででしたが、東北初となるJDXとの連携協定をうまく事業に組み込み、通常の事業と少し違う見せ方やPRをする工夫をしました。

「プラットフォーム」を名乗る理由

森戸氏:今までの自治体では、コンソーシアムや協議会を立ち上げるケースが数多く見られます。しかし今回は「プラットフォーム」という形です。今までも郡山市さんでは、商工会議所や金融機関、中間支援組織など各方面と協議会を立ち上げて経営支援に取り組んで来られたと思いますが、今回は明確にプラットフォームを名乗っている。そこに対する思いはいかがですか?



三部氏:今回は、DX推進に対する新しいチャレンジであり、今まで誰もやっていないことに取り組むことが主旨です。新しいことにチャレンジしやすく、多様な人が関わりやすい場にしたかった。だから敢えて「プラットフォーム」というネーミングにしたんです。



深谷氏:最初は「DXラボ」というネーミング案もあったのですが、それだと製造業・工業寄りなイメージを持つ人も出てくるのでは?と考えました。商業・工業問わず、ターゲットを広くしたかったのでプラットフォームとしました。



森戸氏:「多様な方々が関わる場」でいうと、アドバイザーの方々も、多様性に富んでいますよね。



三部氏:まず、森戸さんがエグゼクティブアドバイザーで、その他にも4名の方にスペシャルサポーターをお願いしています。みなさま郡山にお住まいの方ではなく、東京をはじめ全国で活躍されている方々です。地域の方に限らず、他エリアで豊富な知見をお持ちの皆様に参画いただき、メンタリングを通してエントリー企業の視野を広げたり、エントリー企業のことを全国にPRするきっかけになればと考えています。


森戸氏:「こおりやまDXプラットフォーム」には、商工会議所や金融機関の方にも関わってはいただくのですが、同じ取り組みをするのではなく、地元企業にとって選択肢を増やすという主旨なんですね。今はデジタル社会ですから、マーケティングや、ウェブ解析のプロから知見を得て、次の戦略を考えるなど。アドバイザーの方々の豊富なネットワークを、地元企業が活用できるきっかけにもなりますね。

​​未来の地域社会をビジュアル化するユニークな取り組み

森戸氏:他には無いユニークな取り組みだと思ったのが、エントリー企業それぞれのデザインスケッチです。各企業が何を達成したいのか、ビジュアルで表現していますよね。エントリー企業側の変化はいかがですか?


三部氏:全てのエントリー企業に対してオンライン面談をしながら、それぞれのアイデアスケッチを描かせていただきました。描きながら話すと、さらにアイデアが膨らむ効果があります。経営者のビジョンが可視化され、さらにその先まで膨らませて描ける点が良いですね。「働き方改革部門」でエントリーした方も、業界全体の将来ビジョンが見えてきたり、DXってワクワクする将来を描くことが大事なんだな、という気づきにつながりました。


しかしその反面、描いたビジョンを具現化したり、一つ一つアクションを起こしていくためには、中小企業には担い手が不足していることも明らかになりました。経営者の熱い思いはあるのですが、右腕となってそれを実行する人が不足しているんです。IT分野が得意、というだけでなく、プロジェクトリーダー的なスキルを持った人材育成が必要だと感じました。



森戸氏:このようにビジュアルで描くと、頭の中にモヤモヤと存在している思いがどんどん整理されますよね。「このフローには人手が足りているか?」「こういう取り組みは前例があるか?」「このアイデアなら、うちで手伝えるよ」など可視化されやすく、アドバイザーもメンタリングの会話を通して突っ込みやすくなります。



深谷氏:「行政っぽくない」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、グラフィックを基にむしろ議論が深まり、第三者からもアドバイスを受けやすく、企業にとって気づきが増えるなら問題はなく、むしろ効果的な取り組みだと思います。もちろん、行政への補助金申請の場面では、経営計画書への落とし込みも必要ですが、申請するにあたってビジョンを計画書に書く必要がありますから、アイデアスケッチ化のような機会はどんどん利用すると良いと思います。



森戸:未来の地域社会をビジュアルで描くというのは、今後大事な取り組みだと思います。単に職場のIT化、RPA化、AI導入などで業務効率化する計画書を書く、という場面では「効率化で時間が余ったらどうするの?」「これ以上、短縮する必要はあるの?」という発想に陥ってしまう人もいます。しかし、業務効率化で時間が生まれたら、別の地域課題解決ができて、より良い地域社会の未来づくりにつながっていく、というのがDXで本来目指すべき姿です。それを可視化するために、ビジュアル化は今後ますます重視されていくと思います。


地域全体のボトムアップにつなげるには? 

森戸氏:今後郡山市としては、「こおりやまDXプラットフォーム」を通じてどんな企業・人とのつながりを広げていきたいですか?



深谷氏:地域内・異業種との繋がりや比較から自分の足りないところ、他社とのギャップを確認して行動に移してほしいですね。そこから連携・協業がさらに推進されていくと思います。



森戸氏:デジタル田園都市構想の中では、「場」「広場」つまり「プラットフォーム」作りが重視されています。今までは「自助」「公助」というかたちの二極でした。


「自助」とは、住民が自分たちでNPOを作ったり、民間企業でサービスを立ち上げて地域課題解決を目指すことです。


「公助」は、行政が交付金を使ってさまざまな施策を打ち出していく取り組みです。

これら二極に加えて、これからは「共助」が必要になっていくと。

NPO・企業・自治体が共に、利益のためではなく、将来のために力や知恵を集める場所こそが「プラットフォーム」だとデジタル庁は言及しています。

そこで、大学や高専・専門学校・高校など次世代に向けた人材育成を行う機関も見逃せませんよね。



三部氏:現状「こおりやまDXプラットフォーム」ではまだ各種教育機関との連携はできていませんが、必要性は感じているので、今後広げていきたいですね。


私自身はコワーキングスペースを運営している経験上、多様な人が集まる場では化学反応が起きて、想像もしなかった成果につながることを実感しています。


世代・地域を超えて、集まることができる場にしていきたいですね。



森戸氏:デジタル田園都市構想のペーパーでは、「役割の変化」についても言及されています。


例えば、公民館の定義は従来、地域住民が集まって合議、子供会、シニアの生涯学習などの場でしたが、そこから少し役割が変わって、地域外と連携するためのハブ、コミュニティバスの発着点、医療従事者(看護師)や介護士、保育士など専門家が在籍する新たなサービス拠点になるなどが考えられます。三部さんのコワーキングスペースにも、子どもたち・シニア層も来ているのでしょうか?



三部氏:コワーキングスペース創設の来賓で市長をお招きした際に、「公民館と同じような役割を担う場所だ」というお話しがありました。実際に日々小学生が来て、コワーキングスペースの会員さんからプログラミングを習ったり、会員さんが主催するPC・タブレット教室にシニアが来たり、学びや情報交換のコミュニティとなっています。

その傍らでアプリ開発を目指すIT起業家たちが、VRプロジェクトを立ち上げ、福島の魅力を360度VRで発信する取り組みを立ち上げたりなど、なかなかカオスな環境だと言えます。そのほか、郡山市が実施しているSDGsアクセラレータープログラムという起業家育成事業もあり、相乗効果を今後生み出していけると良いなと思っています。



森戸氏:空き家、公民館、高校・大学などにしても、地域間での連携によって新たな価値が生まれ、役割が再定義されることがありますよね。地域内で不足しているスキルは、オンラインを介して地域外から調達してくることも考えられると思います。


「こおりやまDXプラットフォーム」のアドバイザー陣もまさにそうですね。関係人口・交流人口を増やしていくうえでデジタルは大いに役立つと思います。今後、「こおりやまDXプラットフォーム」に、どんな企業・人が域外も含めて参画すれば、より盛り上がると思いますか?



深谷氏:「こおりやまSDGsアクセラレータープログラム」という起業家育成事業では、郡山広域圏で地域課題解決のために東京や大阪からベンチャー企業に来ていただき、実証実験の取り組みを進めています。大都市圏のバリバリの起業家のスタンスから、地方の起業家が学ぶことも多いのではないかと思います。多様な人が交流することで化学変化を起こす取り組みは大事だと思います。


そのような場を上手く作っていくイメージです。郡山市役所産業政策課として重要な取り組みは、地元企業の育成、ひいては地域の存続です。地元だけが販路ではなく、圏域外に販路を広げる視野も持ってもらうことが地元企業には必要だと思っています。今後は、販路開拓に関する連携もできるといいと思っています。



森戸氏:プラットフォームに関わっていただくと、協働プロジェクトなども可能性がありますよね。

大都市圏の、事業スピードが速い企業などと地元企業が協働することで、学びも多いかも知れません。三部さんはいかがですか?これからどんな人・企業に関わって欲しいとお考えでしょうか。



三部氏:JDXとの連携をフル活用し、従来はなかなかつながりの機会を作れなかった方にもメンタリングを依頼できたことで、非常に学び・気づきが多いと感じています。学べることはどんどん学んで、地域内でのビジネスに生かして欲しい。視野が広がる方とならどんどんつながりたいです。そんな場に地元の支援機関にも、もっと参入してもらい、地域全体のボトムアップを図りたいですね。



森戸氏:デジタル田園都市構想を踏まえると、自治体間のつながりもこれから増えていくんじゃないかと思いますので、「こおりやまDXプラットフォーム」の事例は他の自治体にも参考になると思います。成功や、失敗も含め、今後、他の自治体に知見を共有出来ると良いと思います。それでは、最後に、次年度に向けた新しい取り組みなど伺って締めくくりとしたいと思います。



深谷氏:来年度以降も継続し、一期生が二期生とどう関わっていき、連携を深めていくかが重要になります。併せて、メディア露出・PRをもっと増やしたいですね。将来的には、個人的な願いではありますが、郡山市が福島県・東北を牽引する、という自負を持ってやっていきたいです。



三部氏:深谷さんと同じで「DXといえば郡山」のような、日本中からそう思われるような存在にしていきたいです。例えば、日経の一面を飾れるような事例を出したいですね。



森戸氏:やはり、広報への取り組みも重要ですよね。他自治体や、周りの人が参考にして真似することで必然的に牽引役、リーダーになっていきます。でも、せっかくやってるのに粛々とやって、外部に対して発信しないと盛り上がりません。みんなの気分をワクワクと高揚させ、熱中させるために、リーダーが煽ることも必要だと思います。「こおりやまDXプラットフォーム」がそういう場になっていくと良いなと思います。本日は、ありがとうございました。

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