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士業こそ地域DX推進のキーパーソン!中小企業の悩みに伴走し、変革をアシスト

士業とは、中小企業と日々接する中で、経営上の悩みを聞く機会が多い存在だ。

そこでいま、地域企業のDX推進のキーパーソンとして改めて士業に注目が集まっている。


2022年2月15日にオンラインイベント「士業こそ地域DX推進のキーパーソンに 士業のDXについて考える」が開催され、アルパーコンサルティング株式会社 代表取締役 古川 忠彦 氏、一般社団法人 IT顧問化協会 理事 石川 浩司氏らをゲストに迎えて、「士業のDXと今後求められる役割」についてディスカッションを展開した。

主催:一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会
共催:Re-Innovate Japan


<登壇者>
アルパーコンサルティング株式会社 代表取締役 古川 忠彦 氏
一般社団法人 IT顧問化協会 理事 石川 浩司 氏
一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸裕一

<MC>
石倉美佳



古川氏:アルパーコンサルティング株式会社の古川です。2013年までは税理士を顧客とするTKCという会社に在籍、2014年に独立してコンサルティング業を営んでいます。地域の商工会議所や金融機関、認定支援機関へ出向いて士業のスキルアップをサポートする公的な役割も担っています。


石川氏:IT顧問化協会 理事の石川です。前職は会計事務所で、コンサルティング部門の責任者を務めていました。


2017年頃からクラウドが登場し、中小企業こそクラウドを活用することで、さまざまな課題を解決できるのでは?と考え、会計事務所に在籍しながら、税理士向けのクラウド活用勉強会を継続的に開催してきました。


ところが、税理士とはインプットは得意ですが、アウトプットが上手くない方もいて、頭でっかちになりがちで、なかなか新しいことを実践できない課題が散見されます。


そこで、IT顧問化協会の立ち上げに至り、現在はITの専門家の人材育成、勉強会、ビジネスの現場で実践できる仕組み作りを展開しています。 



森戸氏:大手企業には、社内に弁護士・社労士・会計士・税理士といった士業の役割を担う人が在籍しています。

しかし中小企業経営者は、法務・労務・財務などのすべてを自分で実行するか、外部の士業に依頼しなくてはなりません。

近隣地域の方に依頼、という発想になりがちですが、最近はそうでもなくなってきていて、必ずしも地域に根付いていなくても、オンラインを介して多様な地域の方に対するサポートも可能になっています。

すると、「先生」と呼ばれる人の役割がそもそも変わっていくのではないか?と考えています。

中小企業のDX推進のサポート役になるべき

森戸氏:私は2021年4月から、福岡県直方市のDX推進本部CIO補佐官として活動しており、10月からは広報戦略官も務めています。実は、現地へ訪問するのは月1、2回で、あとはほぼオンラインです。実は今、北関東や東北の方からも、CIO補佐官の打診を受けていますが、「定住しない」というのが前提です。地域DX推進という話の中で、私はあくまで「よそ者」という役割です。


このように今は定住しなくても、役職を務めることが可能で、働き方や役割の担い方の選択肢が増えていると言えます。


ただし、地域の変革に向けて自治体職員、金融機関、商工会議所、地域の事業者さんたちと議論を深めていく必要があり、全部オンライン会議で、という訳にもいきません。


お互いに旧知の仲であったり、地域の事情に明るい方にも参加いただいて、推進する必要があります。そこで地域のビジネス事情に明るい士業が果たす役割は大きいのでは、と思っています。


古川氏:おっしゃるとおり、コロナ禍のこの2年で、座学講義はオンラインでできることが広がりました。例えばビジネスの海外展開に関する講義であれば、海外在住の日本人と繋いで現地事情を話してもらうなども可能になりました。オンラインとリアルを使い分けることで、できることが広がったと言えます。


しかし、地域DX推進に関する課題は多いと感じています。


例えば自治体・商工会議所は、行政区割りです。DXにしても地方創生にしても、面的に地域で掘り下げていきたい場合に、行政区割りが大きな障壁となる場合があります。


では、複数市町村に跨って、行政区割を超えられる人たちは誰?と言うと、例えば地域金融機関が挙げられます。ところが金融機関内では、外部のインターネットに気軽に繋いではいけない、イントラ以外は接続NG…といった内部ルールがあり、DX以前にITツールそのものに関して苦手な人が多い、というのも課題です。


税理士も、月次のルーティン業務が多く、新たな取り組みに対して積極的に飛び出して行こうとしない、保守的な人たちだと言えます。それに加えて、顧問先の中小企業を実際に訪問するのは事務所のスタッフたちです。税理士自身がDXに対してやる気になっても、スタッフと温度差があれば、またそこに課題が生まれます。


つまり、まずは士業・専門家の属性ごとに、突破しなければならない課題があるように思います。

だから、まずは1回リアルで会って、相手の温度差を確かめることが重要です。その後は、オンラインで繋がるのも良いと思います。ただ、初回からオンラインのみだと、議論を深められずに終わってしまいかねません。


石川氏:古川さんの話は、非常に共感できます。


中小企業庁が小規模事業者に対し「ITの相談は誰にしますか?」とアンケートを取ったところ、26%が顧問税理士と回答しました。


ただしこれは「相談する」というだけの話で、相談を受けた税理士が皆、ITリテラシーが高いとは限りません。一般的な税理士は「よくわからない取り組みは、やめておきなよ」などと潰しにかかってしまいます。


日本国内の企業は、中小企業が圧倒的に多いため、そのDXが進めば日本の生産性はもっと上がるはずです。ところが、それをサポートする役割の士業が、実はサポートしきれていない実情があるのではないでしょうか。


会計事務所は安泰か?と言うと、決してそうではありません。野村総研は、92.5%の業務がクラウドに取って代わられると述べています。会計事務所は顧問料の仕組みで成り立つ、いわゆるサブスク型モデルです。


先々の売上を見通すことが可能であり、ビジネスモデル自体は非常に優秀です。しかしクラウドやAIの登場により、顧問料の価値は揺らぎつつある。旧来の価値にしがみつき続けるのではなく、旧来のビジネスを基盤として今後、何に取り組むかが重要です。直近1、2年で「電子帳簿保存法」「インボイス制度」が登場し、中小企業のDX推進はもはや必須です。これを機に、士業や会計事務所が、中小企業にレクチャーをすべきです。単に税制改正について知識をインプットするだけではなく、せっかくやるなら、DXによるビジネスモデル変革のサポートをしてあげてほしい。しかし、なかなかできていない人が多いですね。

士業の再定義をする必要がある

森戸氏:地方創生には「よそ者」の役割も必要だという話をしました。


今、地域DX推進で足りない存在は「よそ者」「デジタルに詳しい若者」「斬新な発想を持った人」です。このような人たちが参画してくれないと、旧知のメンバーだけでは新たな発想が湧いてこない。メンバーを入れ替え、新しい視点を持った人を呼び込むことも大事です。ただし、地域内の事業者は、域内で事業を営んでいるため、置き換えられません。自治体・商工会議所も、行政区割りで立地しているので、代えがたい。しかし、士業は必ずしも域内の人ではなくても、役割を提供しつつ新たな視点を提供することが可能です。親世代からお世話になっている税理士、弁護士などもいるかもしれませんが、跡継ぎ世代からすると、同世代のほうが話しやすい、などもあるのではないでしょうか?


古川氏:私も、地域活性化に「よそ者」の役割は極めて大事だと捉えています。


DXに限らず、観光地域づくり法人のDMOなども同様です。既存の観光協会がそのまま名前だけDMOに変えた、などは上手く行かないパターンが多い。旅行会社に丸投げするパターンもダメです。


やはり自治と同じく、まずは地域の人達が議論を深めることが大事ですが、森戸さんがおっしゃったように、域内の人だけだと価値観は同じなので、新しい視点やアドバイスが非常に重要です。


森戸氏:「域外から同業が参入してきたら、仕事を取られてしまう」といった発想にもなりがちだと思いますが「取る・取られる」ではなく、例えば「顧問契約を結ぶのは地域内で」「アドバイザー契約は地域外で」など展開を工夫することも重要です。


古川氏:私もそう思います。よそ者と、地域の人で、それぞれに持っている知見や強みは違います。


そして、同じ地域内でも士業同士の連携はあまり聞きません。例えば、中小企業診断士と税理士は、組んでいないほうが一般的です。


士業の属性それぞれによっても、強みは違います。


ITコーディネーター、弁護士、社労士…例えば、ITに明るい士業と、そうではない士業が、互いがクロスするような仕掛けもを作っていかなければなりません。


森戸氏:古川さん自身も、全国で支援活動されてて「よそ者」の視点や強みをお持ちですよね。


古川氏:そうですね。


例えば、地方の人の「できない」という思い込みを払拭することなどは、よそ者の役割だと思います。ドローンの活用について地方の人に提案すると「それは東京でやることでしょ」という思い込みが見られます。「そんなことないよ、首都圏の人口密集地域でドローンを飛ばすよりも、広大な土地の広がる地方で飛ばす方がずっと運用しやすく、地方での活用こそ恩恵が大きいんだよ」などと話すと「確かにそうだなぁ」と納得してくれます。


森戸氏:中小企業と対話していると、都市部はデジタル化が進んでいて、地方は遅れている…という思い込みがありますね。


しかし地方こそ、不便さを補うためにデジタルを武器にしなければ、将来的に事業を持続できず、立ち行かなくなってしまいます。


中小企業をサポートしている士業も「地方都市や中小企業はデジタルを使えない」という先入観があるのではないでしょうか?だからますます、アナログから抜け出せなくなってしまう…。


石川氏:士業の再定義をする必要がありますね。士業とは「企業の問題解決 お手伝い業」でなければなりません。昔は「先生」と教えを請われ、上から教えるような立場だったかもしれませんが、今そんなのは求められません。「企業のお悩みがあれば、解決するよ」という姿勢が必要です。


中小企業が、社内の悩みについて外部の助けを必要としているなら、「縄張り」という発想を捨てて、東京だろうが、海外だろうが、解決できる仕組みを持っている人が企業にアテンドすることが求められています。


士業は定例で経営者に会うことができ、日々、問題や悩みを細やかにヒアリングすることが可能で、しかも税理士ならば、相手の財布の中身まで分かっています。


「企業の悩みを解決すべきは、士業しかいない!」と意識変革しなくてはなりません。

士業同士の横連携も進めば、問題解決のための仕組みがより強固になり、各地のDXはもっと進むのではないでしょうか。


森戸氏:ネットがない時代には、地域の商工会議所に頼んで、近隣の士業を紹介してもらっていましたよね。


ところが今は、オンラインで地域を超えて「東京の先生」「北海道の先生」「沖縄の先生」など誰に依頼するか、自由自在に選べます。DXにより、中小企業の課題解決の進め方が、大きく変わってきていると言えます。


中小企業は人手が少なく、ただでさえ忙しい。今後は、困った時にオンラインでもすぐ相談できる体制の士業などが選ばれやすいかもしれませんね。

中小企業の課題を自分ごと化すれば、さまざまなアイデアを提供できる

森戸氏:士業に就いている人は、国家試験をクリアした人たちなので、土台には皆、同等の知識を保有する人たちだと言えます。さらには、AIやWebの発展で、一般の人々でも法令や税務について素早く答えを得られるようになっています。今や、知識ベースはもう誰でも一緒ではないか?とも言えます。士業は今後、例えば「デジタルに詳しい」など、今まで以上の付加価値、新たな役割を求められるのではないでしょうか?


古川氏:士業が中小企業のDXを支援する、という話で言うと…「DX」と構えて挑むのではなく、いかにデジタルを活用して「もっと楽に生活が出来る」「楽に儲かる」「豊かになる」といったアイデアを出していくことだと思っています。


例えば私の近所にある、家族経営の蕎麦屋ではコロナ禍で出前注文が増えました。しかし電話注文で、伝票を起こして…というアナログなやり方です。それに対して私は、「データで残すように」と提案したんです。「やって何か意味があるのか?」と言うので、こんな話をしました。「例えば、あのマンションの●●号室の人は、いつもカツ丼を頼むけれど、最近飽きてきたのか頼まなくなったね。新たに『三元豚のスペシャルカツ丼』のようなメニューを出してマンションにチラシをポスティングしておけば、また頼んでくるかもしれないよ」つまり「データを活用すれば、効果的な営業が可能になる。でも、データにしない限り、楽に儲からないよ」と。


この会話の中に、「DX」という言葉は一切出てきませんよね。

つまりDXとは、デジタルを使って中小企業の経営を変革させることです。士業が中小企業の課題を自分ごと化して本気でアドバイスすれば、いろいろなアイデアを出せるのではないかと思っています。特に税理士は、今後そのような役割になるべきです。税理士とは法人の9割に顧問で入っていて、月に何度でも顧客の元を訪問して、日頃の悩みや課題を聞き出せるポジションに居るからです。


森戸氏:地域内の傾向・動向を分析して、中小企業に対してアドバイスを提示するというのも士業の役割ですよね。


石川氏:士業のマインドとして「お客さまの課題を解決する」が本来の仕事だと、常に意識することが大事です。


先生も事務所のスタッフも、日次・月次のタスクに追われるばかりでは余裕がなく、人の相談など受けられなくなってしまいます。

よって「士業のDX」とは、業務効率化によって中小企業から相談を受ける時間を創出し、サブスクの価値を上げていくことが本質だと言えます。業務効率化とは、顧客サポートの中でのデジタル活用、および、士業自身の事務所内でのデジタル活用の両輪で考える必要があります。事務所内のDXができているからこそ、顧客にDXのノウハウを提供できます。


ある事務所さんの素晴らしい事例として、「アナログ活動を重視するために、デジタル化を推進する」という考え方があります。時間を取ってお客さんに会いに行き、会食や対話を通して悩みや課題をしっかり聞き出す。それはある意味、アナログで非効率な行動だとも言えますが、お客さんの声を聞くことは、士業にとっては大事なビジネスチャンスです。お客さんの声を聞かない士業は、今後、AIなどに淘汰されてしまうでしょう。


昨今、「士業は将来、無くなる業種」なんて言われることもありますが、ポテンシャルを活かせば、売上を現在の何倍にもできる、非常に恵まれた業種だと私は捉えています。

士業の強み=顧客の問題解決をできるポジション

森戸氏:世の中の複雑化が進み、法改正や税制改正などが繰り返されると、膨大な知識を情報処理する能力はコンピューターが勝るでしょう。士業に就いている人自身が、これからシニア世代に突入すれば、体力も記憶力も低下していくため、尚更コンピューターの力を借りる必要があります。


しかし、士業に就いている「人」自身の人間性や経験値、相談相手になること…などは、AIやコンピューターでは置き換えられません。


特に今の時期、会計士や税理士の事務所は確定申告シーズンで極めて多忙です。そこをデジタルの力を使ってルーティン業務をもっと楽にできると良いですよね。


古川氏:士業に就いている人は、受験勉強を突破して資格を手に入れている人たちなので、とにかくインプットや勉強が好きで、「DX」と言われた場合にも勉強から入りがちです。


でも、私は「勉強より、まずはやってみる」ほうが大事だと思います。例えばLINEは、8800万人が使っているけど、勉強してからLINEを使い始める人なんていないですよね。


だから士業のDXも「頭でっかち」ではなく、「まず行動、トライ&エラー」が大事です。たとえ失敗してもその知見もまた相談先で活かすことできます。変革に挑む人たちがもっと目立って、その人を中心にコミュニティが広がる流れになると良いと思います。


石川氏:デジタルで「こんなことができるんだ」とワクワクするマインドを持つことが大事ですよね。「国が求めるから、苦行で変革」ではなく、「今までの仕事が半分の時間でできる!」とか「空いた時間で好きなことができる、家族と過ごせる、旅行に行ける」とか…マニュアルを読み込んで、頭でっかちになって遅れを取るのではなく、まずはやってみて楽しむことが大事です。


ITツールでビジネスの仕組みを変えられるのがDXです。それで顧客が仕事をもっと楽しめるようになって利益が上がったら、士業としてこんなありがたい話はないですよ。


森戸:士業が今までとは違う面白い仕掛け、役割を担っていくことで、もっと地域活性化につながりそうですよね。

中小企業は、経営資源に乏しいなんてよく言われますが…士業自身もその先入観、イメージを「中小企業こそスピード感を持って変革できる」「中小企業こそ大きく変革できるポテンシャルを秘めている」など、転換させることが重要です。

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