Re:Innovate Japan 滞りのない未来を創造するため

地方こそ今すぐメタバースに参入すべき。沖縄発「空手×メタバース」の事例に見るこれからの地域コンテンツ発信

平成30年度に観光客数1万人を突破した沖縄。「空手」「エイサー(祭り)」「やちむん(焼物)」「紅型(染物)」など、地域特有のファンに高い関心を寄せるファンも多い。


そのような中、富士通Japanの辻氏、多和田氏らは「空手×メタバース」の取り組みを発信することで、各方面から注目を集めている。


2022年3月16日にオンラインイベント「メタバースが切り拓く、地域発のコンテンツビジネスの可能性」が開催され、富士通Japan株式会社 辻氏・多和田氏、富士通株式会社 シニアエバンジェリスト・松本氏らをゲストに迎え、メタバースと地域発のコンテンツビジネスの可能性についてディスカッションを展開した。


主催:一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会
共催:Re-Innovate Japan

<登壇者>



辻 一磨 氏
富士通Japan株式会社
クロスインダストリー
ビジネス本部 地域活性化ビジネス企画推進 マネージャー


多和田 敦 氏
富士通Japan株式会社クロスインダストリービジネス本部 マネージャー


松本 国一 氏
富士通株式会社 シニアエバンジェリスト


<進行>
光野 あや 氏
一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会
広報室長




辻氏:富士通Japan株式会社の辻です。DXを通じた地域活性化推進に携わっています。


以前は物流業の専任営業として全国の物流商談の支援を実施しておりましたが、近年内閣府の国際物流関連(補助)事業を受託し、年の約半分を沖縄にいる生活を送っておりました。そして、その活動を通じて沖縄県とのつながり繋がりも深まり、「沖縄県空手振興課」とのご縁から空手DX提案が始まりました。(空手発祥の地、沖縄では「沖縄空手振興ビジョン」という施策の下にデジタル化を検討しています。)


私自身、副業で都内において空手道場経営をしているため、空手に対する愛は人並以上のものがあり、上記のDX提案とも並行して「空手×メタバース」の取組に至りました。

多和田氏:富士通Japan株式会社 クロスインダストリー本部の多和田です。

辻と共に「空手×メタバース」の活動をしています。私は沖縄出身でシステムエンジニア職に18年携わっており、今も沖縄で活動しています。沖縄県内のお客様とともに地域課題解決を目指し、新規事業立ち上げや、DXビジネス推進を担当しています。


小橋川氏:富士通Japan株式会社 小橋川です。多和田と同じ取り組みをしています。我々メンバー皆、新しい物が好きです。VRで新しいものを広められるかもしれないという可能性を感じ、辻さんの話に共感して取り組みを進めています。


松本氏:富士通シニアエバンジェリストの松本です

メタバースを皆さんにどんどん理解してしていただきたいという、伝道師(エバンジェリスト)の役割を担っています。



地域コンテンツを世界へ。メタバースで認知獲得の可能性が広がる

メタバースとは?

松本氏:メタバースとは、コンピューターネットワークがどんどん発展していき、そのネットワーク上にできたメタの(高次の)世界です。


この世界は、昔から存在していたと言えます。例えば、SNSで繋がっている相手がSNS上のバーチャル的な世界にいる。自分の人格とは違う人格が、ネット上にいる。こういうのもメタバースです。


ネットワーク技術がどんどん発展して、ネットワーク上に新たな空間が生まれたものだと思ってください。


ただし、メタバースの定義は非常に広いんです。例えば、空間上で皆でゲームをプレイするとか。今後は、3D空間にVRゴーグルを着けて自分自身が没入することだったり、3D世界で、NFTと呼ばれるデジタル商品の取引をしたり、といったことも考えられます。簡単に言えば、「ネットワーク上に生まれた新たな世界」と捉えていただければと思います。

メタバースで空手レッスン提供にトライ

辻氏:私が副業で経営する空手(&総合格闘技)道場では、コロナ禍以降にZoomオンラインレッスンを実施しています。


しかし、オンライン空手レッスンというのは実は結構普及していて飽和状態であり、(ユーザーの皆さんも)リアルに勝る部分はないと感じ始めています。


そして空手は世界で1億3500万人の愛好者がいる強力な武道スポーツコンテンツであり、今はコロナ禍で停滞しているものの、沖縄へ毎年7000人ぐらいの外国人が修行に来るなどグローバル需要高まっていました。


(コロナ影響下においても)沖縄の空手道場もはZoomレッスンを発信したり、ECサイトの(空手用具やコンテンツの販売)取り組みも行っており、それらに対して沖縄県も補助金などのにより支援をしました。しかし今(コロナ影響から2年が経過し)ZoomレッスンもECサイトも低迷しており、空手愛好家はもう一歩先の臨場感を求めているのだと捉えています。


そこで私自身が(上記の低迷を打破するための方策の検討として)自身の空手道場でメタバースを使い、どれぐらい練習に活用できるかの実証を行いました。


 空手には「型」と「組手」という2つのカテゴリがあります。「型」は一人で演じて技の精度を競います。「組手」は、対人で技の精度を競い合うものです。 


メタバースを活用することで、「型」の練習であれば、メタバース空間上にトップレベルの先生が何人もいて、(仮想の道場空間で臨場感ある)指導を受けることが可能になります。 また「組手」では、トップ選手(とバーチャルで対戦してみて)の技のスピード感を体感できるなど、練習に活かすことができます。

具体的には一旦フリーの骨格センシングソフトを活用し検証を実施してみました。(富士通では別途骨格センシング&AIによる採点システムを東京オリンピックの体操競技の採点に提供していますが、今回はテストのため敢えてフリーの簡易版で実施しました)そこでは、技の動きを繰り出した時の骨格の動き、姿勢、角度等をセンシングし、アバター化によって可視化します。そして最終的には達人の先生と比べてどれぐらい乖離があるのか可視化され、型の練習、技の精度向上に役立てることができます。実際にセンシングして結果を見てみて「これは使える!」と感じ、本格的に現在取り組むべく、スポーツ競技とメタバースの親和性を探っているところです。



可能性を秘めた地域コンテンツとは?

辻氏:空手は、地域発の文化コンテンツとして非常に価値があります。空手を習いに来る訪日外国人は、一般観光客の2〜3倍の滞在期間で、消費額も倍以上です。ヨーロッパやロシアの富裕層が家族全員で来日し、長期滞在で修行というケースが比較的多く、空手だけで経済効果は年間10億円に上ります。さらに、東京オリンピックを機に沖縄空手の「型」に注目が集まり、世界的に「空手発祥の地、沖縄」の認知度が高まっており、地域文化コンテンツのブランディングに大きな可能性を感じています。


多和田氏:特にコロナ禍で国内旅行も海外旅行も難しく、リアルでの人と人のつながりが希薄になりつつあります。


しかし、他地域や国外と交流したい、訪れたいという願望を持つ人は、日本全国にも、そして海外にもいます。


地方の人々も、地域コンテンツを対外的に発信をしていきたい。


それをうまく伝えられないだろうか?と思ったんです。動画やオンラインイベントという手段もありますが、デジタルであっても、より身近に感じられて実体験に近いものとして、VRに取り組んでいるところです。


沖縄にはエイサー(祭り)、やちむん(焼物)、紅型(染物)といったコンテンツもあります。焼物のような伝統工芸であれば、VRを通して現場に近い形で陶芸の技法を疑似体験できる可能性など、各地に眠る伝統文化をメタバース上で展開できるのではないかと考えています。


辻氏:その中でも沖縄の場合、今一番グローバルでの可能性があるクールコンテンツが空手だと言え、我々の取り組みに対して官民ファンドも興味を示し、支援の検討の動きも出てきました。

ただし、オンラインだけでは成立しないと思っていて、リアルとオンラインの融合が重要です。沖縄を訪れる人のペルソナを想定し、「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」各タッチポイントに向けたコンテンツを整備して、周辺産業の活性化につなげていきたいと考えています。



メタバース参入 まず何から着手すべき?

松本氏:メタバースと言っても定義は広いと述べましたが、やはり一番分かりやすいのはVR空間です。まずは体験して、認識することがメタバース世界への入り口となります。そのうえで「自分のビジネスとの親和性は?」「どんな切り口で活用できるか?」と考えてみてください。


空手の例も、沖縄のクールコンテンツではあるけれど、そのままではビジネスにはつながりません。コンテンツのメリットをいかにお客様に伝えて、ユーザーの価値に変え、マネタイズできるかが鍵です。すると、ビジネスの種になっていきます。


伝統工芸の焼物という話も出ました。しかし、その焼物自体が認知されていなければ、ユーザーにとって価値あるコンテンツかどうか分かりません。


よって、まずは認知獲得・拡大が必須です。そしてVR上でいかに面白いコンテンツとしてアウトプットし、ユーザーを満足させるかのアイデアも必要です。その先には、リアルで焼物が売れる展開も生まれるかもしれません。


そして、バーチャル空間で作られたモノを用意する、取引する観点も必要です。例えば、バーチャル空間の部屋に飾りたくなるような「バーチャル焼物」などが一例です。


リアル空間で成り立っているものを起点に、バーチャル空間でも価値を生み出すことが、新たなビジネスを考える上で重要です。


価値の捉え方とは、実にさまざまです。量産できるモノに価値を求めることは難しいかもしれませんが、バーチャル空間に1点しかないモノに対して、昨今では手に入れたいと思う人がたくさんいます。例えば1点もののデジタルアートに数十万、数百万を払う事例も生まれています。

つまり、希少価値を実現できることが大事です。「NFT」のような、複製不可能な技術、価値を証明する技術が広がっていくことで、メタバース内でも商取引が拡大すると考えられます。



メタバース参入にはどんなパートナーが必要?

松本氏:まず、メタバース空間のワークルーム(部屋)などを3Dデザインできるクリエイターとのコラボが必要です。


また、空手の事例で言えば、リアルにあるものをスキャニング(動きであればモーションキャプチャー)できる技術を持ったメンバーも必要です。


しかし、メンバーを揃えただけでは成功しません。

コンテンツ自体に価値があると認識している、地域の人や、職人。さまざまな立場の人と連携しなければ、新たな価値は生み出せません。

一つの事業者で何か出来るわけではなく、さまざまな人・プレイヤーとのつながりが重要です。



「空手×メタバース」のはじまり

辻氏:都内で、沖縄空手と総合格闘技の道場を経営していますが、端緒となった思いは純粋に「メタバースを体験してみたい」だったんです。

現在、メジャースポーツにおいては、メタバースやNftコンテンツが数多く出てきていて、活性化しています。


空手の「型」は、アバター化して(型の世界観を)仮想空間で表現するのに合っており、動きをセンシングする実証から始め、SNSで発信していきました。それが空手専門誌等メディアの目に留まり露出されたことで、某外資NFTファンドが「空手NFTをコンテンツ化して、テストマーケしよう」とお声がけ頂きテストマーケティングが始まりました。「型」をセンシングしてアバター化する取り組みは、アニメ化してゲームキャラ等にも展開可能ではないか?と期待感が膨らんでいます。


まずは自分がやってみる、発信していく、から始め、現在は、他の人にも体験してもらう、ステータスにあります。

この取り組みのパートナーは、まずは(弊社沖縄メンバーである)多和田さんと小橋川さんです。まずは各々個人的にオキュラス(Meta社のVRゴーグル)を買っていろいろとトライしました。それをSNSで発信していく中で、富士通の関連部門(スポーツやDX)も興味を持ってくれました。


興味を持った人にもっと体験してもらおう、というステップで、沖縄県庁情報産業振興課や空手振興課の方々にも実際に体験頂き、(その可能性に対して)共感を得ることができました。


先程言った外資系NFTファンドも含め、ステークホルダーとのつながりを通じて、これからパートナーをさらに増やせるよう動いて(取り組みを発信し続けて)います。



「バーチャル上で何をビジネスとして広げていきたいか?」という視点を持つ

松本氏:「メタバースの定義は広い」と言いましたが、どこを見て「メタバース」と言うかによって、ポイントは違ってきます。


例えばメタバース上のバーチャル商品を作れるという話は、元(リアル)があるから作ることが可能になります。リアルにある商品をメタバース上でも販売したい、と考える人たちからしたら、「販売」がポイントになります。


その一方で「空間」を体験してほしい、と考える人もいるでしょう。例えば、自動車メーカーのバーチャルショールームなどがその一例です。これは、リアルのショールームに来る人たちに、バーチャル上でも体験してもらいたい意図であり、商品を販売する観点とは違います。

つまり「バーチャル上で何がしたいか?」「何をビジネスとして広げていきたいか?」かを考えて明確にしていくことが大切です。


メタバースは「目的」ではなく、あくまで「手段」です。「バーチャル空間を通じて、世界中に繋がる人たちに、どうアピールしたいか?」を考えましょう。



メタバースの現状と、今後に向けた課題

松本氏:これは、Meta社が提供するHorizonというアプリ内のワークルームです。10人ぐらいで集まって会話などできます。リアルで手を動かしたりすると、画面内の自分のアバターも呼応して手を動かします。

つまり、メタバース上の人々を動かすために、リアルの人々が体を動かしているんです。

これを実際に体験すると、自分自身が3D世界の中にいるんだという感覚が芽生えてきます。


松本氏:現状の課題として、VRゴーグルの重量やバッテリーの持続時間が挙げられます。しかし技術的な問題なので2、3年もすれば解消するのではないでしょうか。

それから、VRゴーグル中のプロセッサーの処理の課題もあります。現状ではこのような(※上図)画面を生成できますが、さらに進化してパフォーマンスが向上すれば、もっとリアルに近い画質、広い空間を生成できます。

あと2、3年もすればゴーグルを着けてVR空間に入り、皆にとって「リアルかバーチャルか分からないような世界」が広がっていくかもしれません。

そういう不思議な感覚を、まずは一人のユーザーとして体感し、その先にあるビジネスの種を見つけていくことが大事です。



空手・文化ツーリズムからの誘客を目指す

辻氏:那覇の南に、豊見城市というところがあります。かつては、名だたる武術家がたくさんいた場所です。現在は人口60万人で、流入人口も増えています。


そこに県の施設で「沖縄空手会館」、隣接で「おきなわ工芸の杜」という文化施設がありますが、元々周辺には、もともと「豊見城グスク」という城があり、市が城址公園整備事業に取り組んでいます。


我々は「空手×工芸×メタバース」の取り組みをさらに発展させることで、豊見城を「空手と文化の聖地」にし、空手家たちのモニュメントパークのような存在にしたいと構想を掲げています。もともと市の活動として「伝統文化工芸」「グスク・空手」の発信を掲げていた部分とも合致します。


「おきなわ工芸の杜」は、伝統工芸・近代工芸を軸に、さまざまな工芸家たちを招聘し、制作・販売・人材交流の場とするスポットです。


沖縄に来たらまず(空港からのアクセスが良い)豊見城から観光をスタートさせ、「空手会館」そして「工芸の杜」で文化を体験できる旅を提供したいというビジョンです。


多和田氏:「地域の文化を誰に見てもらいたいか?」を考え、ペルソナ設定をし、カスタマージャーニーを細かく描いているところです。


ユーザーが豊見城を認知し、興味を抱き、現地で体験をして、沖縄を理解し、満足して帰っていく。一連のユーザー行動や感情を想定して、提供すべきサービス案を練っているところです。


辻氏:例えば…

「旅マエ」には「オンラインで知れる」「VRで空手や工芸を学べる」とか。

「旅ナカ」はリアルで、現地でしか味わえないことが重要です。

「旅アト」には、SNS、EC、VR等を介して、帰った後にもオンライン接点を通じてより深くつながる、といった想定です。


辻氏:また、アート分野はNFTとの親和性も高いと言えます。

例えば既に沖縄紅型に応用されていて、着物の模様をデジタル資産として販売し、職人の収益向上を図るといった取り組みです。


沖縄伝統文化×NFTのマーケットを今後構築できるのではないかと考えています。

デジタル商品なので、商品化して価値を提供できるまで一瞬で、非常にスピーディーなマーケティング検証が可能です。

それがメタバースを通じたコンテンツの威力だと感じています。


松本氏:NFTとは、「モノに価値を与えるためにどうすれば良いか?」その課題を解決するための技術です。

例えば紙幣は、日銀が価値を保証してくれるから価値が生じます。保証がなければ、ただの紙切れになってしまいます。

それと同じことをバーチャル上でやるために、「モノに価値がある」と、バーチャル上で保証する仕組みのことです。


辻氏:我々の「空手×工芸×メタバース」の取り組みを通じて、自治体の方をはじめ共感の輪が広がりました。

地域のクールコンテンツ・産業・文化いずれにせよ、まずは発信していくことが重要です。

手段次第では、無限の可能性が広がっていきます。


多和田氏:富士通Japanとしては、沖縄の地域課題解決につなげる取り組みをしていますが、そのミッションは、異業種あるいは地域と全国を繋ぐことです。

しかし、ただ単に人や企業と繋がるだけでは課題解決はできません。

辻さんにとっての「空手」のように、思いや愛が強いからこそ、推進できると言えます。


小橋川氏:これからは、VRゴーグルとPCさえあれば、未来に向けてビジネスチャンスが広がっていきます。しかし、ツールありきではなく、「バーチャル上で何をビジネスとして広げていきたいか?」という着眼点やセンスが勝負になると言えます。


松本氏:バーチャル空間は、これまでに無かったような、全世界と気軽につながるためのプラットフォームです。

その空間内でのビジネス展開は、まだまだこれからであり、大都市でも地方でも参入障壁は同じだと言えます。


だからこそ、いち早く理解・参入し、取り組みを始めることで勝者になれます。

「大都市圏の人たちには技術があるから…」といった発想ではなく、まずは自分自身がメタバースを体験し、理解し、新規ビジネスをいかに立ち上げるかが重要です。


地域には固有のコンテンツが山ほどありますが、まだまだ認知不足です。


しかしメタバースを活用すれば、世界中の人々から認知を獲得できる可能性が広がり、興味を持ったユーザーをリアルへ誘客できる展開も期待できます。つまり、観光のDXです。


メタバース空間で何が出来るかを考えて、新たなビジネスにチャレンジしていただければと思います。

【4月11日開催】

沖縄の観光が抱える課題とは?どんな体験を提供できると良いのか?
観光を稼ぐ産業に変革するには?そしてこれらをデジタルとリアルを組み合わせてどのように実現していくのか?を議論します。

https://20220411okinawadx.peatix.com/view

ピックアップコンテンツ